≪ 3月22日(土) ≫
僕の人生に限って言わせてもらえば、大事な日はいつだって快晴だ。
まるで誰かの見えない加護でもあるのではと思えるほどに。
全ての荷物を、引越し屋さんに運び出してもらい、見送った。
そして、入居してきた時と同じ状態になった部屋を、最後にもう一回見渡してみる。
振り返ればこの街で、この部屋で、いろんなことがあった。
社会人をスタートしたのはこの部屋だった。
つらいこともあったけど、総合的に見れば、悪くない3年間だったな。
いやむしろ素敵な日々だった。
でも、もう行かなくちゃ。
部屋の鍵をかけ、エレベーターを降りて玄関から外に出たところで、先輩が立っていた。
「駅まで送るぜ。」
そう言うと、先輩は踵を返し先に歩いて行く。
昨日あれほどはしゃいでいた僕たちなのに、今日は言葉少なに歩いていた。
「なあ、まもる。」
先輩が沈黙を破った。
「向こうに行っても元気でな。
いつでも遊びに来いよ。」
「先輩こそ、遊びに来て下さいね。」
「ああ、会おうと思えばいつでも会える距離だ。別に地球の裏側に行く訳じゃない。」
「ですよね。」
「まあ、地球の裏側でも会いに行ってやるけどな。」
先輩は少し遠くを見ながら、そうつぶやいた。
※3
駅に着き、改札のところで僕は先輩にお辞儀をする。
「お世話になりました。じゃ、ここで。」
「…ホームまで送るよ。」
先輩と二人、改札を通る。
通勤のために、数えきれないくらい使ったこの駅なのに、今日はいつもと違って見えた。
僕たちは、人影まばらなホームに並んで立っていた。
僕は、先輩に今ここで言うべき言葉を懸命に探したが、適当な言葉が浮かばない。
隣で黙っている先輩もそうなんじゃないかと思った。
アナウンスが響く。電車がホームに入ってきた。
「先輩、お世話になりました。」
と、僕が頭を下げて電車に乗りこもうとした瞬間、先輩が声を発した。
「まもる!」
僕は振り返った。
「俺は、最高の先輩だったろ。」
予想外の質問に戸惑いながらも、僕は心からの気持ちを素直に口にした。
「ええ、最高でした!」
その言葉を聞いた先輩は、人差し指で僕を指さしながら、今までで最高の笑顔で叫んだ。
「お前も、最高の後輩だったぜ!まもる!」
出発を告げるベルがなる。
僕は深くお辞儀をした。
電車のドアが閉まる。
顔をあげると、窓越しに見える先輩は、まだ何かを叫んでいるようだ。
「 ア ・ ディ ・ オ ・ ス ?
ふふっ、先輩らしいや。」
先輩は、最後まで先輩だった。
ホームの端まで電車を追いかけてきた先輩の姿が、やがて小さくなっていった。
Fin
※1~3はtwitterにてフォロワーの皆様から頂いた案を元に構成されています。