窓からの日差しが少し赤くなりかけた僕の部屋。
僕と先輩は、いつものベランダから部屋を見回していた。
感心した感じで先輩が言う。
「ほとんどかたづいているな。」
「まあ、入る時も出る時も簡単なもんですよ。バッグひとつでOKですから。」
三年前に部屋を決めた時のことを懐かしく思い出した。
「バッグひとつでOKか…。」
先輩もしみじみと繰り返す。
「しかし、東京かあ、楽しいことが待っていそうだな。まずは、ザギンでシースーだな。いやギロッポンでピロシキだ。よし、決めた。」
まるで、自分のことのように話す先輩。
「転勤するのは僕ですよ。」
不思議なテンションの先輩を僕はたしなめた。
「それはどうかな。」
意味深な返しをする先輩。
「えっ、先輩も?」
まさか、でもありえるかも。
僕は少し動悸が早まった。
それを見透かしたように、半笑いの先輩が言う。
「あくまでも可能性の話だ。俺たちに転勤はつきものだぜ、サラリーマン!」
「…ですね。また一緒に働けたら楽しいですね。」
落ち着きと同時に、少し寂しさがやってきた。
その後、会社の同僚の話や年末に行った東京の話で盛り上がった。
ひとしきり思い出話が終わると、先輩はすっと立ち上がった。
「じゃあ、帰るな。」
「先輩、これまでいろいろお世話に…。」
「まだ、お別れじゃないぜ。
明日も見送りに来るからな。今日のところはとりあえずグッナイだ!」
先輩は後ろ向きにピースサインを送って部屋を出て行った。
あいかわらずの、かっこよさだ。